FTMにとって、就活や転職の時期が近づくと、「どんな職場なら自分らしく働けるんだろう」という問いが、頭のなかをぐるぐると回り始めます。
制服は?トイレは?健康診断は?「普通」の手順を一歩踏み出す前に、先にクリアしなければならないことがあるような感覚
。FTMとして職場を探す時間は、それだけで疲弊してしまうほど複雑だと感じることがあります。
もちろん「どんな職業が向いているか」は、性別よりも個人の得意・不得意や好みで決まります。
それでも、働く環境として「FTMにとって負担が少ない」「配慮を得やすい」業種や職種は実際に存在します。
この記事では、FTMが働きやすいと感じやすい職業の特徴と、具体的なおすすめ職種を5つ紹介します。
さらに職場を選ぶ際にチェックしておきたいポイント、カミングアウトの判断基準まで、まとめて解説します。
FTMが職場で感じやすい「働きにくさ」の正体
FTMが「働きやすい職業」を探す前に、まず何が「働きにくさ」を生んでいるかを整理しておきましょう。
毎朝の憂鬱。制服と服装規定の壁
業種によっては、入社時点で性別に応じた制服が支給されます。
戸籍上の性別に合わせた服装を求められると、毎朝出勤するたびに違和感を抱えることになります。
接客・サービス業や医療現場など、ユニフォームが明確な職場では特にこの問題が起きやすいです。
どちらへ入ればいい?トイレ・更衣室の問題
外見と戸籍が一致していない場合、職場のトイレや更衣室の使い方は毎日直面する問題になります。
多目的トイレが使えればまだよいのですが、それがない職場では「どちらを使うか」を毎回考えなければならない状況が続きます。
年に一度の壁。健康診断の性別対応
健康診断では、生物学的な性別に基づいた検査項目や、男女別の検診ルームの割り振りが行われます。
事前に会社側に相談できる環境かどうかが、この時期の安心感を大きく左右します。
「本名」で呼ばれる息苦しさ。戸籍名と通称名の問題
性別変更が完了していない場合、社内書類や呼称に戸籍名が使われることがあります。
通称名の使用を認めてもらえるかどうかは、日々のストレスに直結する問題です。
FTMが働きやすい職業5選。それぞれの特徴と注意点
上記のような課題と照らし合わせたとき、負担が少なく、自分らしく働きやすい職業にはどんな特徴があるでしょうか。
具体的に5つ紹介します。
① ITエンジニア・プログラマー
エンジニア職は、リモートワーク対応率が高く服装の自由度も高い職種です。
基本的にはスキルと成果で評価される文化が根づいている企業が多く、性別よりも「何ができるか」が問われる場面がほとんどです。
IT業界全体としてLGBTQ対応や多様性への理解が進んでいる企業も増えており、働きやすい環境を見つけやすい分野のひとつです。
未経験からでもプログラミングスクールや独学で参入できる職種も多く、Webデザイン・フロントエンド開発・サーバーサイドエンジニアが取り組みやすい入口になるでしょう。
② ライター・編集・コピーライター
文章を書く仕事は、フリーランスとして在宅で働けるケースが多く、クライアントとのやり取りもオンラインが中心です。
服装も性別も関係なく、純粋に「書く力」で評価される点が強みです。
FTMとしての経験を活かして、当事者向けメディアや支援サービスの執筆を担当できる可能性もあります。
副業として始め、軌道に乗ったら独立、というルートを取る人もいます。
自分の経験を仕事につなげやすいという意味でも、特に当事者に向いている職種のひとつです。
③ グラフィックデザイナー・イラストレーター
デザイン・イラスト系の職種は、作品やポートフォリオが評価軸になるため、性別が問われる場面がほとんどありません。
通称名でキャリアを築けること、フリーランスとして働きやすいことも大きな魅力です。
②のライターと同様に在宅・フリーランス型が多い点がポイントです。
①エンジニアとの違いは「個人の表現・感性」が仕事の核になることで、自分の世界観やバックグラウンドをそのまま強みにできる可能性があります。
④ 福祉・心理・支援職(ピアサポーター含む)
障害福祉・LGBTQ支援・メンタルヘルス支援などの分野では、当事者であることが強みになります。
ピアサポーターとして同じ経験を持つ人を支える仕事は、FTMとして生きてきた経験が直接活きる職種です。
NPO・福祉施設・支援機関にはLGBTQへの理解が深い職場も多く、カミングアウトしやすい環境が整っている場合があります。
「自分の経験を誰かのために使いたい」と思っている人には、特に向いているかもしれません。
⑤ 専門職・資格職(薬剤師・看護師・社会保険労務士など)
資格が評価軸になる専門職は、性別よりもスキルと資格で見られることが多いです。
人員が不足している現場も多く、LGBT対応に前向きな職場を選ぶ余地が生まれやすい点も特徴です。
ただし医療・介護の現場では、着替え介助や入浴介助など、身体的な性別が関わる場面もあります。
職場によって個別の相談に応じてもらえるかどうかを、事前に確認しておくことが重要です。
FTMの職場選びで「職種」より大事な5つのチェックポイント
FTMが職業を決めたあとは、具体的な職場選びが鍵になります。
同じ職種でも、職場によって働きやすさは大きく異なります。以
下の5点を確認することで、入社後のミスマッチを減らせます。
① 通称名を使えるか
社内システムでの登録名や呼ばれ方に、通称名を使えるかどうかを確認しましょう。
大手企業では通称名制度を設けているところも増えていますが、中小企業では個別の相談が必要なケースもあります
求人票や採用サイトに記載がない場合は、面接の場で確認するのが現実的です。
② LGBTQに関する制度・相談窓口があるか
ダイバーシティ推進担当者がいる、人事部にLGBTQ対応の窓口がある、といった組織的な取り組みがあるかを確認しましょう。
採用サイトや求人票に「LGBTフレンドリー」「ダイバーシティ推進」の記載があるかどうかも判断材料になります。
③ トイレ・更衣室への個別対応ができるか
多目的トイレが設置されているか、更衣室について個別の対応が相談できるかどうかは、日々の安心感に直結するポイントです。
制度として明記されていなくても、相談できる文化があるかどうかを確認することが大切です。
④ 通院・治療に合わせた働き方ができるか
ホルモン治療や手術、定期通院のスケジュールに合わせた柔軟な働き方ができるかも確認しておきましょう。
フレックスタイム制、リモートワーク、有給休暇の取りやすさなど、治療と仕事を両立するうえで大切な要素です。
⑤ 職場の雰囲気を事前に確認できるか
制度が整っていても、職場の空気感や上司・同僚の意識によって居心地は変わります。
面接の場で雰囲気を確認したり、転職エージェントを通じて現場のリアルな情報を集めたりするのがおすすめです。
口コミサイト(OpenWork、Glassdoorなど)にLGBTQ対応についての情報が載っている場合もあります。
FTMの就活・転職でのカミングアウト、どう判断する?
FTMにとって「カミングアウトすべきかどうか」は、個人の判断に委ねられています。
誰にでも開示する義務はありませんし、開示しないことが「嘘をついている」ことにはなりません。
ただし、以下のようなケースでは事前に相談しておくことで、入社後の負担を減らせる場合があります。
- 健康診断で性別に関わる対応が必要な場合
- 制服・ユニフォームの変更をお願いしたい場合
- 通称名での登録をお願いしたい場合
- トイレ・更衣室の使い方について個別の配慮が必要な場合
「全部話さなければいけない」ではなく、「必要な配慮だけを、必要なタイミングで伝える」という考え方が、心の負担を減らすうえで現実的です。
まとめ:FTMが働きやすい職場を選ぶのは「わがまま」じゃない
FTMが働きやすい職業を探すとき、大切なのは「何の仕事をするか」だけでなく、「どんな環境で働くか」を同時に考えることです。
FTMが職場を探すとき、制服の自由度、リモートワークの可否、LGBTQ対応の制度
。こうした要素を意識して職場を探すと、選択肢が明確になります。
すべてが揃った完璧な職場はなかなかないかもしれませんが、「これだけは譲れない」という優先順位を持つことで、自分に合った働き方に近づいていけます。
FTMとして焦って職場を決める必要はありません。
「なんとかなる」ではなく「なんとかできる」環境を、丁寧に選んでいく価値があります。
自分の気持ちを後回しにしないで、自分に合う場所を探していきましょう。
