「まずは精神科に行けばいいの?」
「地元に専門の先生なんていない……」
FTMが治療を志した時、最初にぶつかるのがこの「病院選び」という高い壁です。
特に専門機関が少ない地方に住んでいる場合、その心理的・物理的なハードルは計り知れません。
僕が治療を始めようと決めた2006年、今のようにSNSでリアルタイムな情報を得ることは困難でした。
そんな中で、地元の病院の門を叩き、暗中模索していた時期の記録を振り返っていこうと思います。
今だからこそ伝えられる「地方での立ち回り方」と「現代の最短ルート」を解説していきます。
FTMとして「GID」を探し続けた20年前
当時の日本では「性同一性障害」という言葉は社会的にほとんど知られておらず、FTMが医療的支援を求めるためのルートは極めて限られていました。
インターネットはあっても、信頼できる情報は少なく、当事者同士で繋がる場もほぼ存在していない状態です。
2006年当時、僕がまず行ったのは「性同一性障害(当時の呼称)」のカウンセリングを受けられる病院探しでした。
今のように「近くのジェンダー外来」と検索してすぐに見つかる時代ではありません。
どう検索して見つけることが出来ず、困った挙げ句「日本医師会連盟」に藁にも縋る思いでメールを送ったことを覚えています。
結果的にそのメールは、僕と地元の病院を結びつけてくれました。
当時の僕は、「拒絶されたらどうしよう」「性同一性障害ではない」と言われたら…という強い恐怖心でいっぱいでした。
そんな極限の精神状態で辿り着いた地元の病院は、ごく普通のどこにでもある総合病院。
この「特別な治療ではない地道なカウンセリングの始まり」こそが、その後の戸籍変更まで続く長い道のりの確かなスタート地点となったのです。
FTMが初めて病院の門を叩いた日
FTMにとって「初めて病院に行く」という行為は、単なる受診ではありません。
自分のアイデンティティを、初対面の医師に言葉にして伝えるという、精神的に非常に重い体験です。
「信じてもらえるだろうか」「変に思われないか」という不安を抱えながら、それでも踏み出す一歩。
その勇気が、その後の全てを動かすスタートになります。
ようやく辿り着いた診察室。
目の前にいたのはジェンダーの専門家ではなく、泌尿科の医師。
県内の性同一性障害の相談窓口になっているらしく、専門の担当病院まで紹介してくれると先日頂いたメールには書いてありました。
- ガイドラインの説明
- ホルモン注射前の段階の説明
- なぜ心理療法などが必要なのか
- 家族の問題
- 職場の問題
- パートナーの問題
こういう課題をすべてクリアして前に進めるんだと説明を受けました。
その後は染色体の検査をし、染色体もホルモンも異常がないという結果だったのでカウンセリングを進めることに。
このまま病院でカウンセリングを進めるわけではなく、専門の医師が揃っている県立医大に通う事になるのだとか。
県立医大への紹介状や予約の紙をもらい、この病院での話し合いは終わりました。

ちなみに、染色体の検査代は9,600円とびっくりしたのを覚えてます。
20年前の金額なので今の値段は定かではないですが、保険適用でも検査代はやはり高額ですね。
FTMが地元の県立医科大でカウンセリングを受けた記録
地方に住むFTMが大学病院のカウンセリングにたどり着くまでの道のりは、決して平坦ではありません。
「この先生に全てを話してもいいのか」という信頼の構築に時間がかかることも多く、何度も心が折れそうになることがあります。
それでも通い続けることが、診断書・紹介状という「次の扉を開く鍵」につながります。
県立医科大では地元の病院とは一歩進んだカウンセリングを受けました。
- 自分の性に違和感を覚えたのはいつ頃か
- 服装はどうだったか
- 学校生活はどうだったか
- 今の職業
- 職場でのこと
- 自分の感情(イライラするか・鬱ではないか)
この話し合いの中で先生の中で「治療を進めて問題ないな」と判断できたのか、「名前の変更」や「手術の事」など治療の話に進んでいきました。
名前の変更をするために必要な事を色々教えてくれました。
- お店の会員証は使わなくても作成して出来るだけ通称名を使って実績を残しておくべき。
- 手紙も家族やパートナーに無理やり送ってもらう

通称名・実績集めに関しては下の記事にまとめてありますので参考にして頂けたらと思います。

フルネームで呼ばれるたびに、居心地の悪さを感じている方は多いのではないでしょうか。 僕もかつては「〇代」という、誰が見ても女性だとわかる名前でした。病院や役所…
色々話を聞かせてもらった後、この病院では精神療法を受けることが出来ないので別の病院に通う必要があることを聞き「やはりそうなるか…」と落胆しました。
先生に薦められたのは岡山大学病院です。
僕も事前に色々調べていた段階で、その病院のことはとても有名なので知っていました。
ですが、本格的に通うとなるとやはり資金が必要です。
できることなら地元で進めることが出来たらな、とは思っていましたが無理なら仕方ありません。
先生は「好きなときに行けばいいから」診断書を頂きました。
もちろん「通わない」という選択はありえないので、それからは県外へ通う資金を稼ぐ事に注力し、後日「岡山大学病院(現:ジェンダーセンター(GID)外来(精神科外来))」に電話をし、カウンセリングの予約を取りました。
今の時代、地方に住むFTMが取るべき戦略
地方に住むFTMにとって、2020年代の医療環境は20年前と比べて大きく変わっています。
ジェンダークリニックや専門外来の数は増え、オンライン診療の普及で物理的な距離の壁も低くなりました。
それでも「まず最初の一歩」に悩むFTMは今も多くいます。

僕が経験した20年前と現在で、最も大きく変わったのは「情報のアクセシビリティ」と「医療の定義」です。
2026年現在、WHOの診断基準(ICD-11)では「性別不合」と定義され、精神疾患という枠組みから外れました。
これに伴い、地元のメンタルクリニックを受診する際の心理的ハードルも以前よりは和らいでいるはずです。
さらに、現代の最強の武器は「オンライン診療」の普及です。
初診こそ対面が必要なケースが多いですが、地方に住んでいながら都市部の専門医のカウンセリングを併用できる環境が整いつつあります。
20年前のように「わざわざ遠出をして絶望する」というリスクを最小限に抑えることが可能です。
ただし、注意してほしいのは「ネットの口コミに振り回されすぎないこと」です。
20年前も今も、医療の本質は医師との一対一の対話にあります。
まずは地元の信頼できるクリニックで「自分の物語」を話し始める。
そのアナログな一歩が、デジタル時代においても依然として最も確実な攻略法なのです。
まとめ
- 地方に住むFTMでも、地元の精神科・心療内科から相談を始めることで治療の道は必ず開ける
- FTMが最初から専門外来を探す必要はなく、「紹介状」を得ることが現実的な第一歩
- オンライン診療の普及により、地方のFTMでも都市部の専門医と繋がれる時代になった
- 大学病院のカウンセリングは時間がかかるが、それが診断書・紹介状という次の扉を開く
- 20年前と比べ、FTMへの医療的サポート環境は大幅に整備されており、地方でも選択肢が増えている
- 焦らず地道に「地元の通院」を続けることが、FTMにとって長期的な治療の最も確実な道
地方に住んでいるからといって、FTMとして理想の治療を受ける権利を諦める必要はありません。
まずは地元のクリニックで自分の想いを話し、紹介状を手にすること。それが全ての始まりです。
20年前、暗中模索しながら病院の門を叩いたあの日の自分に言いたいのは「その一歩は正しかった」ということ。FTMとしての治療の道は、遠回りに見えても、確実に前へ進んでいます。
地元の大学病院で、自分自身のアイデンティティを医学的に証明していくこと。
その一段ずつの階段が、あなたを望む未来へと確実に運んでくれます。
この記事が、暗闇の中で病院を探しているFTMのあなたの、最初の一歩を照らす光になれば幸いです。
FTMの治療に「遅すぎる」はありません。
今日が、その一歩を踏み出す日です。
