「ホルモン注射を始めると寿命が短くなる」
。そんな話、どこかで耳にしたことがある人は多いと思います。
僕自身、2006年にカウンセリングを始めたとき、母から「体を壊さないか心配」と何度も言われました。
それから20年近くホルモン注射を打ち続けた今、「寿命が短くなる」というのは正確ではなく、「リスクを知らずに管理しないと危ない」が正しい表現だと思っています。
この記事では、FTMのホルモン注射と寿命の関係について、僕の体験と一般に知られている医学的な知識をもとに整理します。
「FTMは寿命が短い」という話の根拠はどこから来るのか
まず、この話がどこから広まったのかを整理します。
FTMのホルモン療法(テストステロン投与)には、体の変化を促す一方で、いくつかの副作用リスクが伴います。
その中で特に「命に関わる可能性がある」とされているのが以下の点です。
テストステロン投与の主なリスク
- 赤血球増加(多血症):血液が濃くなり、血栓(血の塊)ができやすくなる
- 肝機能への負担:特に経口薬(錠剤)で起きやすい。注射でも長期的に注意が必要
- 脂質異常(コレステロール):HDL(善玉)が下がりLDL(悪玉)が上がる傾向がある
- 心血管リスクの変化:長期投与との関連が研究されており、定期的なモニタリングが推奨されている
これらのリスクは「テストステロンを打てば必ず起きる」ではなく、「管理せずに放置していると顕在化しやすい」という性質のものです。
「FTMは寿命が短い」という話の多くは、こうした副作用リスクが適切に管理されなかったケースや、古い時代の医療環境(モニタリング体制が整っていなかった頃)の話が尾ひれをつけて広まったものと考えられます。
FTMとして20年打ち続けた僕が実感していること
2009年に内摘(子宮・卵巣摘出)をして戸籍を変え、それからずっとテストステロン注射を打ってきました。
今現在も定期的に通院し、血液検査を半年に1度は必ず受けています。
「寿命が縮んでいる感覚があるか?」と聞かれると、正直ありません。むしろ、戸籍を変えてから精神的な安定が増し、ストレスが大幅に減ったと感じています。
もちろん、これは僕個人の体験です。全員に当てはまるとは言いません。
ただ、「ホルモン注射=寿命を削る行為」という感覚は、少なくとも僕には合っていない。
実際に気を付けていること
- 半年に1度の血液検査(ヘマトクリット値・肝機能・脂質を必ず確認)
- 数値が悪化した場合は注射間隔や量を医師と相談して調整
- 水分を意識してとる(血液濃縮を防ぐため)
- 体の異変(頭痛・胸の痛みなど)は放置せず早めに受診
- タバコは吸わない(血栓リスクを高めるため)
これだけのことを続けていれば、少なくとも「ホルモン注射によって急に死ぬリスク」はかなり下げられると感じています。
FTMとして長くホルモン注射を続けていく上で、「何となく不安」で止まるのが一番もったいない。
リスクは確かに存在しますが、それは定期検査と生活習慣の見直しで大半がコントロールできるものです。
不安があるなら、まず数値で確認する習慣をつけることが最初の一歩です。
僕が20年続けてこられた理由のひとつは、「打っている」という事実より「管理している」という安心感があったからだと思います。
ホルモン注射はFTMにとって生活の一部。怖いものではなく、付き合い方を知るべきものです。
20代・30代・40代、年代別に振り返る
20年という年月を振り返ったとき、年代によって感じ方や体との向き合い方は変化してきました。
20代(2006年〜):変化の始まり
2006年に岡山大学病院でカウンセリングを開始し、GID診断を受けてホルモン注射を始めました。声が低くなり、体毛が増え、体つきが変わっていく過程は確かな手応えでした。「注射で体が壊れていくのでは」という不安もありましたが、定期検査で数値を確認しながら続けることで、「管理できる治療だ」と実感していきました。
30代(2009年〜):内摘後の変化と戸籍変更
2009年に子宮・卵巣摘出(内摘)を行い、戸籍の性別変更が確定しました。内摘後は女性ホルモンを産生する臓器がなくなるため、ホルモン管理がより重要になります。骨密度の低下を防ぐためにも、ホルモン注射の継続が必要です。
30代は社会的に「男性として生きること」が当たり前になった時期で、精神的な安定が体の健康にも良い影響を与えていたと感じています。「寿命が縮んでいる」という感覚は、この頃も全くありませんでした。
40代(現在):体のメンテナンスを意識する年代
45歳になった今、20代の頃と違うのは「疲れが抜けにくい」「体の各部位のメンテナンスを意識する必要が出てきた」という点です。ホルモン注射だけの影響とは言えませんが、年齢とともに体の変化は感じます。
血液検査の数値を見ながら、注射の量・間隔を微調整する年代になってきました。20代の頃から同じペースで打ち続けているわけではなく、体の状態に合わせて調整するのが40代の実態です。
FTMのホルモン注射|血液検査で見るべき数値
ホルモン注射を続ける上で、定期的な血液検査は必須です。
特に以下の項目を主治医と一緒に確認することをすすめます。
| 検査項目 | なぜ重要か |
|---|---|
| ヘマトクリット(Ht) | 血液の濃さを示す。高すぎると血栓リスクが上がる |
| AST・ALT(肝機能) | 肝臓への負担を確認 |
| LDL・HDLコレステロール | 心血管リスクの指標 |
| テストステロン値 | 投与量が適切かを確認 |
これらの数値に異常が出た場合、注射の量や頻度を調整することで改善できることが多いです。
「数値が悪くなったから即やめる」ではなく、医師と相談しながら調整していくのが現実的な対応です。
FTMでホルモン注射を「後悔している人」の話も見ておく
もちろん、ホルモン注射を続けた結果、体調を崩したり、後悔している人もいます。
僕の周りにも、胸オペや注射のタイミングで「もっとよく調べてから決めればよかった」と言っていた人も0ではありません。
僕は特に後悔はしていませんが、ホルモン注射を打ちつづけて感じていることを書いてみました。

よくある質問:FTMの寿命とホルモン注射
ホルモン注射をずっと打ち続けても大丈夫ですか?
定期的な血液検査と医師の管理のもとで続けているFTMは多くいます。
「打ち続けること=危険」ではなく、「管理なしに続けること」が一番のリスクになります。
どのくらいの頻度で検査すればいいですか?
一般的には3〜6ヶ月に1度の血液検査が目安とされていることが多いですが、担当医の指示に従うのが最善です。
僕は半年に1度を続けています。
タバコは絶対ダメですか?
タバコは血液を固まりやすくし、血栓リスクを高めます。
テストステロン投与でなくても血栓リスクはありますが、投与中は特に注意が必要とされています。
ちなみに、僕は吸いません。
内摘後もホルモン注射は必要ですか?
内摘(子宮・卵巣摘出)後は、女性ホルモンを産生する臓器がなくなるため、テストステロン投与を止めると極端に低い状態になります。
骨密度低下などのリスクもあるため、内摘後も継続するケースが多いです。
ただし、量や頻度の見直しは医師と相談してください。
FTMのホルモン注射を長く続けるために、40代の僕が意識していること
「続けること」と「安全に続けること」は別の話です。20代のときには意識できなかった「長期的な視点」が、40代になった今は自然と身についています。
- 半年に1度の血液検査を欠かさない(ヘマトクリット値・肝機能・脂質を必ず確認)
- 数値が変化したら注射の間隔・量を医師と相談して調整する
- タバコを吸わない(血栓リスクを上げる最大の要因のひとつ)
- 骨密度を意識した食事と、無理のない範囲での運動を心がける
- 同じクリニックで経過を一元管理してもらう(医師に自分の歴史を知ってもらう)
「大丈夫そうだから検査をサボる」という時期が一番危ないと、20年を経て実感しています。何も症状がないうちから管理を続けることが、長く打ち続けられる条件だと思います。
FTMで40代・50代になってもホルモン注射を続けられますか?
続けられます。FTMのホルモン療法は長期にわたって継続するものとして行われます。ただし、加齢に伴い血液検査の数値が変化しやすくなるため、20代・30代の頃より細かいモニタリングが必要になることが多いです。担当医と相談しながら量・頻度を見直すことが重要です。
子宮・卵巣摘出後、ホルモン管理はどう変わりますか?
内摘後は女性ホルモンの産生源がなくなるため、テストステロン投与を止めると極端に低い状態になります。骨密度低下・精神的な不安定などが起きる場合があるため、内摘後もホルモン補充療法として注射を継続するケースがほとんどです。投与量の見直しは必ず医師と相談してください。
まとめ:FTMとホルモン注射と寿命について
- 「FTMは寿命が短い」は誤り。正確には「管理なしに続けると危険」
- テストステロン投与の主なリスクは多血症・肝機能・脂質異常・心血管変化
- FTMが20年ホルモン注射を続けられる最大の理由は「定期的な血液検査」
- 血液検査で特に見るべきはヘマトクリット・ALT/AST・LDL・テストステロン値
- タバコ・過度な飲酒・運動不足はホルモン投与中のFTMにとって特にリスクが高い
- 不安を「何となく」で終わらせず、数値で管理することが長く続けるコツ
「FTMは寿命が短い」という話は、正確な根拠のある話ではありません。
ホルモン注射にリスクがあるのは事実ですが、それは適切な管理によって大幅にコントロールできるものです。
怖がって止めることよりも、正しく知って続けることの方が、多くのFTMにとって生活の質を上げる選択だと僕は思っています。
「止める」という選択を考えている方のために、実際にやめた場合に体に何が起きるのかを別の記事で詳しく解説しています。

2006年から始まった僕のホルモン療法は、今も続いています。
その間に値が乱れたこともありましたが、そのたびに医師と相談して対処してきました。
FTMとして生きていく上で、ホルモン注射は「リスク」ではなく「パートナー」のような存在です。
大切なのは、一人で抱え込まないことです。
定期検査を受けて数値を医師と共有する。それだけで「寿命が縮む不安」のほとんどは解消されます。
FTMにとって、自分の体を正しく知ることが一番の健康管理です。
この記事が、ホルモン注射と寿命について不安を抱えているFTMの方に、少しでも安心と正確な情報をお届けできていたら嬉しいです。
