「戸籍の性別を変えたい。でも、何から始めればいいのかまったくわからない」
そう感じているあなたの気持ち、僕にはよくわかります。
ホルモン治療や胸オペのことは調べられても、戸籍変更となると急に「法律」「裁判所」という言葉が出てきて、一気にハードルが高く感じてしまいますよね。
僕自身も、はじめて手続きを調べたとき、情報が散らばっていてどこから手をつければいいか途方に暮れた記憶があります。
この記事では、FTMが戸籍の性別を変更するために必要な条件・書類・手続きの全ステップを、実際の流れに沿って丁寧に解説します。
2023年の最高裁決定によって要件が大きく変わった点も含めて、できるだけ最新の情報をわかりやすくまとめました。
一つひとつ確認しながら読んでもらえると、「自分にもできそう」と思ってもらえるはずです。
FTMが戸籍変更をするための「条件」をまず確認しよう
戸籍の性別を変更するには、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(特例法)」に基づいて家庭裁判所に申し立てを行います。
この手続きは誰でもできるわけではなく、法律で定められた要件をすべて満たしている必要があります。
まずは自分が要件を満たしているかを確認するところから始めましょう。
特例法の申立て要件(2026年現在)
- 18歳以上であること
- 現に婚姻していないこと
- 現に未成年の子がいないこと
- 性同一性障害であることについて、2名以上の医師による診断があること
上記4点は現在も変わらず必要な要件です。
そして、もう一点
——かつて「手術要件」と呼ばれていた条件について、大きな変化がありました。
2023年最高裁決定で「手術なし」の戸籍変更が認められた
2023年10月、最高裁判所大法廷は「生殖腺の機能を永続的に欠く状態」を求める要件(生殖不能要件)は違憲・無効と判断しました。
これはFTMを含むトランスジェンダー当事者にとって、非常に大きな転換点です。
それまでは、性腺摘出手術(内摘)を受けていなければ戸籍変更ができませんでした。
手術への身体的・経済的なハードルから、長年変更を諦めていた方もいたはずです。
この決定により、手術を受けていなくても戸籍変更の申立てができるようになったのです。
ただし、「外観要件(変更後の性別の性器に似た外観を備えていること)」については、現在も実務上の扱いが揺れている部分があります。
申立て時の状況については、最新情報を家庭裁判所や弁護士に確認することをおすすめします。
FTMの戸籍変更手続き|全5ステップで流れを解説
条件を確認したら、次は実際の手続きの流れです。
大きく分けると「診断書の取得 → 書類準備 → 家庭裁判所への申立て → 審判 → 戸籍謄本の変更」という5つのステップになります。
STEP 1|専門医療機関で診断書を取得する
戸籍変更の申立てには、性同一性障害(または性別不合)であることを証明する、2名以上の医師による診断書が必要です。
これが手続き全体の中でもっとも時間がかかる部分です。
診断を受けられる医療機関は、GID(性別不合)専門外来を持つ精神科・心療内科が中心です。
初診から診断書の発行まで、通院回数や期間は病院によって異なりますが、数ヶ月〜1年以上かかるケースも珍しくありません。
- まず精神科・心療内科でカウンセリングと診察を受ける
- 複数回の診察を経て「性同一性障害」または「性別不合」の確定診断が下る
- 担当医に「家庭裁判所への申立て用の診断書」を依頼する
- 2名の医師の診断書が必要(同じ病院・別の病院、どちらでも可)
診断書には、診断名・診断根拠・担当医の署名・医療機関の公印が必要です。
依頼するときに「戸籍変更申立て用」と明示して、書式や記載事項を確認しておきましょう。
STEP 2|申立書と必要書類を準備する
診断書が揃ったら、家庭裁判所に提出する書類を準備します。
申立書のひな形は、裁判所のWebサイトや窓口で入手できます。
必要書類の一覧は以下のとおりです。
- 申立書(裁判所所定の書式)
- 戸籍謄本(全部事項証明書)(申立て前3ヶ月以内に取得したもの)
- 医師2名の診断書(STEP 1 で取得したもの)
- 収入印紙 800円分(申立手数料)
- 郵便切手(裁判所によって金額・内訳が異なる。事前に確認を)
申立書には、変更したい性別・現在の性別・氏名・住所のほか、「なぜ変更を求めるか」という申立の理由を記載します。
難しく考える必要はなく、自分の状況を正直に、具体的に書けば大丈夫です。
書き方に迷ったら、弁護士や支援団体に相談するのも一つの方法です。
STEP 3|家庭裁判所に申立てを行う
書類が揃ったら、自分の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てをします。
窓口に直接持参するか、郵送で提出することもできます。
申立てが受理されると、担当の裁判官が割り当てられ、審理が始まります。
この段階からは裁判所側のペースで進むため、焦らず連絡を待ちましょう。
裁判所からの呼び出しがあった場合は、指定された日時に出頭します。
面接(審問)がある場合と、書面審理のみで終わる場合があり、どちらになるかはケースによって異なります。
STEP 4|審判(面接・審問)
面接がある場合、裁判官や書記官から申立ての経緯や現在の状況について質問を受けます。
といっても、厳しい尋問のようなものではありません。
僕の印象では、淡々と事実確認をされる感じで、特別に身構える必要はないと思います。
「いつから自分を男性だと感じていたか」「現在の生活状況はどうか」といった内容が主です。
正直に、自分の言葉で答えれば大丈夫です。
審判が下りると、「性別の取扱いの変更を認める」旨の審判書が送られてきます。
STEP 5|審判確定後に市区町村役場で戸籍を変更する
審判書が届いてから2週間が経過すると審判が確定します(即時抗告期間)。
確定したら、いよいよ戸籍の変更手続きです。
本籍地または住所地の市区町村役場の戸籍窓口に行き、以下の書類を提出します。
- 審判書謄本(家庭裁判所から送られてきたもの)
- 確定証明書(家庭裁判所で取得。審判確定後に申請できる)
- 本人確認書類
役場での手続き自体はそれほど時間はかかりません。
窓口で担当者に「性別変更の届け出に来ました」と伝えれば、案内してもらえます。
手続きが完了すると、新しい性別が記載された戸籍謄本が発行されます。
FTM戸籍変更でよく出る疑問・注意点
Q. 戸籍変更に名前の変更は必須?
戸籍の性別変更と名前の変更は別の手続きです。
名前の変更は家庭裁判所への「氏名変更許可申立て」で行います。
性別変更の申立てと同時に行うことも可能なので、担当窓口に相談してみましょう。
ただし、名前の変更には「正当な事由」が必要で、一定期間その名前を使用していた実績(ニックネームとして使ってきた記録など)があると審査が通りやすくなります。

Q. マイナンバーカードや免許証はどうなる?
戸籍変更後は、マイナンバーカード・運転免許証・パスポートなどの公的身分証明書も順次変更が必要になります。
戸籍謄本を取得してから各機関で変更手続きを行いましょう。
- マイナンバーカード:住所地の市区町村窓口で変更
- 運転免許証:警察署・運転免許センターで変更
- パスポート:パスポートセンターで新規申請(変更ではなく再発行扱い)
- 健康保険証・年金手帳:加入している保険組合や年金事務所へ連絡
Q. 費用はどのくらいかかる?
家庭裁判所への申立て費用そのものは収入印紙800円+郵便切手代のみで、金銭的なハードルは低めです。
ただし、診断書の取得費用は医療機関によって異なり、1通数千円〜数万円の場合があります。
あらかじめ通院先に確認しておきましょう。
戸籍変更後にやることリスト
戸籍の性別変更が完了したら、関連する手続きが続きます。
一度にすべてやろうとすると疲れてしまうので、優先度の高いものから少しずつ進めていきましょう。
- 新しい戸籍謄本を複数枚取得しておく(各手続きで必要になる)
- マイナンバーカードの変更
- 運転免許証の変更
- 勤務先・学校への報告(任意。必要な場合のみ)
- 銀行・保険などの金融機関への届け出
- パスポートの再申請
変更後の名義で新しい書類が揃っていくたびに、少しずつ「自分の現実」が追いついてくる感覚があります。
地味な作業が続きますが、一つひとつ確実に進めていきましょう。
FTMの戸籍変更——焦らず、一歩ずつ進めていこう
戸籍変更は、FTMとして生きていくうえでの大きな節目の一つです。
手続きの量に圧倒されそうになる気持ちはよくわかります。
でも実際には、一つひとつのステップはそれほど難しいものではありません。
2023年の最高裁決定によって、手術なしで戸籍変更が認められるようになったことは、多くの当事者にとって現実的な選択肢が広がったことを意味します。
あなたが今どの段階にいても、次の一歩を踏み出す準備はきっとできています。
わからないことがあれば、家庭裁判所の窓口やトランスジェンダーの支援団体に相談するのも全然アリです。
一人で抱え込まずに、使える手段はどんどん活用してください。
あなたらしい毎日が、少しずつ形になっていきますように。
